「最後の晩餐はロマン」江國香織×井上荒野×金原ひとみ『最後の晩餐』刊行記念トーク 

人気作家七名が紡いだ「食」小説アンソロジー。 テーマは「最後の晩餐」だ。 異なる個性が響き合い、 その味わいはまるで極上のフルコースのよう。 そんな思いを抱かせる一冊になっている。 究極にして普遍のテーマに向き合った執筆陣の中から三名が集い、 創作の背景や「食」を書くことへの思い、 また、それぞれの「最後の晩餐」についても語った。

―まず伺いたいのは今回のテーマについてです。「最後の晩餐」と聞いてどう思われたでしょうか。また、アイデアはすぐ浮かびましたか。

江國香織(以下、江國) 与えられるテーマとして、すごく難しいと思った。多かれ少なかれ誰もが喋ったことはあるだろうし、言ってしまえば手垢がつきまくってる。何を書いていいのかわからなかった。

井上荒野(以下、井上) 私もやりにくいと思った。みんなどう書くんだろうとも思っていたけど、江國さんはまさかのコインランドリーが舞台。どうすればこういう発想ができるの?

江國  本当に自宅の洗濯機が壊れたの。買いに行く時間も取れず毎日困っていたんだけど、だんだん悔しくなって。じゃあ、それを小説にしてやろうと(笑)。

井上  最後の晩餐をお店の名前にしようと思いついたときは、いいこと考えたと思ったけど……、もっと考えればよかったと思わされたよ。

江國  このテーマ、文字通り受け止めれば誰か死ななきゃいけないけど。

金原ひとみ(以下、金原) 死なせるかどうか、ですよね。そこで考え方も変わると思います。私は死ぬ話にはしないと決めたものの、どういうシチュエーションがいいのか悩みました。まとまりかけたアイデアがあったんですが、そんな時に友達が大失恋して。わぁわぁ泣き喚く姿を見ていたら、これだと(笑)。令和でもこんな精一杯の恋愛をする子がいるんだと嬉しくなってしまったのもあります。

井上  友達もいいよね。「どうせ死ぬんでしょ」って(笑)。

金原  慰めるわけでもなく、はいはい、そうだねって、いつものように受け流す感じで。最後の晩餐のイメージをちょっと裏切れるかなと思いました。

江國  すっごく面白かった。いや、みんな面白かった。全員見事に違うアプローチで。

井上  みんな自由だよね。

江國  藤野(千夜)さんは追っかけの歴史とか友情のあり様がメインみたいになってて、その自由な書きぶりがとてもいいと思う。

井上  寺地(はるな)さんも原田(ひ香)さんも、みんな、それぞれっぽい。そして、やっぱりどれもうまいなと思う。 金原 お二人の作品もすごく面白く読ませてもらいました。コインランドリーって書く人によってはサブカル感が出そうなモチーフだと思いますが、完全に江國ワールドに落とし込んでますよね。

江國  洗濯機が壊れたおかげです(笑)。

金原  荒野さんのは読みながらボロボロ泣けてきて、最後は号泣でした。

井上  ホントに? ありがとう。

江國  私は角田(光代)さんの話で泣きそうになった。お父さんが食べたがっていた鰻を家族揃って食べながら、みんなまったく違う食べ物を思い出すっていうのがぐっとくる。

金原  食から想起される思い出に個性も表れていますよね。

Profile

江國香織

江國香織

1989年「409ラドクリフ」でフェミナ賞、92年『きらきらひかる』で紫式部文学賞、99年『ぼくの小鳥ちゃん』で路傍の石文学賞、2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、04年『号泣する準備はできていた』で直木賞、07年『がらくた』で島清恋愛文学賞、10年『真昼なのに昏い部屋』で中央公論文芸賞、12年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、15年『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』で谷崎潤一郎賞を受賞。他の作品に『ウエハースの椅子』『シェニール織とか黄肉のメロンとか』『ブーズたち鳥たちわたしたち』など。

井上荒野

井上荒野

東京都生まれ。成蹊大学文学部卒業。1989年「わたしのヌレエフ」でフェミナ賞を受賞しデビュー。2004年『潤一』で島清恋愛文学賞、08年『切羽へ』で直木賞、11年『そこへ行くな』で中央公論文芸賞、16年『赤へ』で柴田錬三郎賞、18年『その話は今日はやめておきましょう』で織田作之助賞をそれぞれ受賞。他の作品に『もう切るわ』『ベーコン』『キャベツ炒めに捧ぐ』『キャベツ炒めに捧ぐ リターンズ』『リストランテ アモーレ』『あちらにいる鬼』『照子と瑠衣』『そこにはいない男たちについて』などがある。小説の他、絵本の翻訳も手掛けている。

金原ひとみ

金原ひとみ

2003年「蛇にピアス」ですばる文学賞を受賞しデビュー。04年、同作品で芥川賞を受賞。10年『TRIP TRAP』で織田作之助賞、12年『マザーズ』でBunkamuraドゥマゴ文学賞、20年『アタラクシア』で渡辺淳一文学賞、21年『アンソーシャル ディスタンス』で谷崎潤一郎賞、22年『ミーツ・ザ・ワールド』で柴田錬三郎賞、25年『YABUNONAKA―ヤブノナカ―』 で毎日出版文化賞文学・芸術部門を受賞。他の作品に『アッシュベイビー』『腹を空かせた勇者ども』、『踊り場に立ち尽くす君と日比谷で陽に焼かれる君』エッセイに『パリの砂漠、東京の蜃気楼』などがある。

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