「最後の晩餐はロマン」江國香織×井上荒野×金原ひとみ『最後の晩餐』刊行記念トーク
―食の描写が好きな作家や印象的な言葉などはありますか?
江國 いっぱいある。金原さんの食の描写もすごくいいと思う。『デクリネゾン』はあまりにも良すぎて、パンチドランカーになった感じだった。
金原 暴力的だったかも。火鍋とか焼肉とか強烈なものばかり食べてますよね。
江國 それに登場人物が飲み込まれていない。小説自体が微塵も負けてない。神業だと思う。
金原 ありがとうございます。
江國 庄野潤三さんが書かれる食べ物もいいなと思う。新幹線に乗ったときに必ず食べる奥様が作ったサンドイッチとか、家に来た植木屋さんに出すきつねうどんとか、ありふれたものばかりなんだけど、日常の幸福の象徴のように感じられる。なんでもない日々の貴重さが隅々まで行き渡っていて、しみじみいいなと思う。
井上 言葉だから伝わること、感じることもあるね。
江國 私にとってはぶどう酒がそう。子どもとはいえ絵本を読んで知ってるんだよね。うちも飲んでごらんと言うほうだったから口にしたことがあるけど、それはワインであって、ぶどう酒じゃない。ぶどう酒というのはもっと美味しいに違いないって思ってた。ぶどう酒への憧れは今もあるかも。
井上 私も思ってる、どこかにあるはずだって(笑)。あと、バターを「バタ」って書かれると別モノになって、すごくそそられる。
江國 そう! 石井桃子さんの『幻の朱い実』。あの中でちょっと気落ちしているようなときに「バタ焼きの牛肉」を食べるの。バターは断然“生”派なんだけど、これも抗えない。
金原 私はカニです。開高健さんがカニを食べるためだけに毎年車を走らせるというエッセイを書かれていたと思うんですが、これを読むと食べずにはいられないです。あと、「孤独のグルメ」も大好きです。漫画の言葉もいいなと思いますが、ドラマのあの画力にはもっとやられます。
井上 私も見てた。確かに食べたくなるね。
―最後に、みなさんが現時点で思う「最後の晩餐」について教えてください。
江國 やっぱり果物がいい。梨にスイカ、イチジク、柑橘類……。以前も考えたことがあるんだけど、これは外せないっていう果物が十二個ぐらいある。 井上 最後にしては元気だね(笑)。私は小説にも書いたように若竹煮。白いご飯も食べたいから、蕗味噌あたりもあるといいな。
金原 私も痛風鍋ですね。牡蠣に雲丹、海老や白子もあって、好きなものが詰まっているので。私にとってのフルーツ盛りです。
江國 カッコいいな。金原さんらしい。でも、見事に三人バラバラ。
井上 ロマンだから(笑)。江國さんが「最後の晩餐はロマンなのだから」と書いたけど、本当にそう。明日彗星が地球にぶつかりますみたいなのがわかってない限り、食べるものは選べない。考えるぐらい自由でいたい。
金原 ロマンを語っていたら、お腹が空いてきました(笑)。
写真・島袋智子 文・石井美由貴
『最後の晩餐』大好評発売中

あなたは人生の最後に何を味わいますか? 当代の人気作家7名が究極のテーマに挑んだ、自由でぜいたくで幸福な「食」小説アンソロジー。
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Profile
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江國香織
1989年「409ラドクリフ」でフェミナ賞、92年『きらきらひかる』で紫式部文学賞、99年『ぼくの小鳥ちゃん』で路傍の石文学賞、2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、04年『号泣する準備はできていた』で直木賞、07年『がらくた』で島清恋愛文学賞、10年『真昼なのに昏い部屋』で中央公論文芸賞、12年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、15年『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』で谷崎潤一郎賞を受賞。他の作品に『ウエハースの椅子』『シェニール織とか黄肉のメロンとか』『ブーズたち鳥たちわたしたち』など。
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井上荒野
東京都生まれ。成蹊大学文学部卒業。1989年「わたしのヌレエフ」でフェミナ賞を受賞しデビュー。2004年『潤一』で島清恋愛文学賞、08年『切羽へ』で直木賞、11年『そこへ行くな』で中央公論文芸賞、16年『赤へ』で柴田錬三郎賞、18年『その話は今日はやめておきましょう』で織田作之助賞をそれぞれ受賞。他の作品に『もう切るわ』『ベーコン』『キャベツ炒めに捧ぐ』『キャベツ炒めに捧ぐ リターンズ』『リストランテ アモーレ』『あちらにいる鬼』『照子と瑠衣』『そこにはいない男たちについて』などがある。小説の他、絵本の翻訳も手掛けている。
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金原ひとみ
2003年「蛇にピアス」ですばる文学賞を受賞しデビュー。04年、同作品で芥川賞を受賞。10年『TRIP TRAP』で織田作之助賞、12年『マザーズ』でBunkamuraドゥマゴ文学賞、20年『アタラクシア』で渡辺淳一文学賞、21年『アンソーシャル ディスタンス』で谷崎潤一郎賞、22年『ミーツ・ザ・ワールド』で柴田錬三郎賞、25年『YABUNONAKA―ヤブノナカ―』 で毎日出版文化賞文学・芸術部門を受賞。他の作品に『アッシュベイビー』『腹を空かせた勇者ども』、『踊り場に立ち尽くす君と日比谷で陽に焼かれる君』エッセイに『パリの砂漠、東京の蜃気楼』などがある。
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