「最後の晩餐はロマン」江國香織×井上荒野×金原ひとみ『最後の晩餐』刊行記念トーク 

―作家としての「食」への向き方も伺います。描写で気を付けていることなどはありますか。

井上  みんなもそうだと思うけど、グルメ小説みたいにはしたくないということ。美味しいものが出ていても、そこには一言も触れない人物がいるかもしれない。いつも味わいについて書けばいいわけじゃないと思う。何をどこまで書くか、小説に合わせてかなり慎重に考えてる。その小説が要請するだけのものを書きたい。

江國  あと、私は食べるのも好きだし、書くのも好きだから、熱が入りすぎないように、控えめに、と思ってる。書き過ぎると悪目立ちするから。

金原  私も熱が籠もりやすいです。書いているうちに食べたくなって店を予約するくらいなので(笑)。この作品の中で食事をする意味とはなにか、そこにフォーカスしようと意識してます。実は、お二人の話を伺いながら、初めて自覚したんですが。

井上  考えるよね、やっぱり。あとね、例えば、昼食の後で出掛けたと書こうとしていると、昼食に何を食べたのかがすごく気になって。この場合なら昨日の残り物とお味噌汁だなとか考えだすと、それを書かなきゃいけないような気がしてくる。自分でも呆れるんだけど。

江國  でもそれは、小説の要請だと思う。

井上  どこまで小説の要請なのかがわからなくなることがあるんだよね。

江國  私は昼食に茹で卵を一個食べたと書くことがわりとあるけれど、軽く食べたのだとしてもそれが何かは入れたい。買ってきたものなのか、チャカチャカッと作ったものなのか。それは小説の要請だと思う。

金原  食べたものでそのキャラクターの見え方も変わりますよね。

江國  そう。健康な人なら誰だって何かを食べて生きている。その行為を書き、食べ物を書くことは小説にとって大きなことだと思う。

Profile

江國香織

江國香織

1989年「409ラドクリフ」でフェミナ賞、92年『きらきらひかる』で紫式部文学賞、99年『ぼくの小鳥ちゃん』で路傍の石文学賞、2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、04年『号泣する準備はできていた』で直木賞、07年『がらくた』で島清恋愛文学賞、10年『真昼なのに昏い部屋』で中央公論文芸賞、12年「犬とハモニカ」で川端康成文学賞、15年『ヤモリ、カエル、シジミチョウ』で谷崎潤一郎賞を受賞。他の作品に『ウエハースの椅子』『シェニール織とか黄肉のメロンとか』『ブーズたち鳥たちわたしたち』など。

井上荒野

井上荒野

東京都生まれ。成蹊大学文学部卒業。1989年「わたしのヌレエフ」でフェミナ賞を受賞しデビュー。2004年『潤一』で島清恋愛文学賞、08年『切羽へ』で直木賞、11年『そこへ行くな』で中央公論文芸賞、16年『赤へ』で柴田錬三郎賞、18年『その話は今日はやめておきましょう』で織田作之助賞をそれぞれ受賞。他の作品に『もう切るわ』『ベーコン』『キャベツ炒めに捧ぐ』『キャベツ炒めに捧ぐ リターンズ』『リストランテ アモーレ』『あちらにいる鬼』『照子と瑠衣』『そこにはいない男たちについて』などがある。小説の他、絵本の翻訳も手掛けている。

金原ひとみ

金原ひとみ

2003年「蛇にピアス」ですばる文学賞を受賞しデビュー。04年、同作品で芥川賞を受賞。10年『TRIP TRAP』で織田作之助賞、12年『マザーズ』でBunkamuraドゥマゴ文学賞、20年『アタラクシア』で渡辺淳一文学賞、21年『アンソーシャル ディスタンス』で谷崎潤一郎賞、22年『ミーツ・ザ・ワールド』で柴田錬三郎賞、25年『YABUNONAKA―ヤブノナカ―』 で毎日出版文化賞文学・芸術部門を受賞。他の作品に『アッシュベイビー』『腹を空かせた勇者ども』、『踊り場に立ち尽くす君と日比谷で陽に焼かれる君』エッセイに『パリの砂漠、東京の蜃気楼』などがある。

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