スーパーマンにならなくていい。WannaEat代表・長澤里美が「私らしく働く」を貫いて手に入れた景色
仕事は必ずしも「好き」が出発点でなくていい。与えられたものであっても磨けば面白さを見出せる、面白くなると結果が出る、仕事が楽しくなってくる。
「特になりたいものがなかった」からはじまったキャリアはいつしかグループ初の女性取締役、そして代表取締役社長に。飲食店の経営効率化と新たな収益源の創出を支援する独自のフードライセンスシェアリングサービス「フーシェア」を展開するWannaEat株式会社(U-NEXT.HD)の代表取締役社長・長澤里美さんから気づくのは、組織のなかで自分が上向く働き方。
自分と同じ人間を作ろうとしていた。鬼軍曹からの脱却

――2025年、WannaEatの代表取締役社長に就任された長澤さん。現在のキャリアは会社員として働くなかでずっと見据えていたものだったのでしょうか?
最初から目指していたわけではありませんが、2009年にUSEN(当時)に入社した当初から「会社で働き続けるなら上を目指そう」という気持ちは持っていました。3年前にWannaEatに取締役副社長として入ってからは「いつか来るかもしれない」と緩やかに覚悟していった感覚です。40歳までになる!という自分の目標は達成することができました。
――株式会社USEN(当時)への入社は、強い思いがあってのことだったのでしょうか?
学生時代は特に「これがやりたい!」というものがあったわけではないんです。ただ総合職として働きたいという漠然とした理想はあって、人と話すことが好きなのでその特技を活かせる、ちゃんと評価される環境のある会社で働くことができたらいいなと思っていました。USENに入社を決めたのは、面接の雰囲気。就活の面接は緊張してつい自分を取り繕いがちですが、USENは面接担当の人事の方がとてもフランクだったんです。「こんなこと言っていいの?」というくらい自然体で話すことができ、ありのままの自分を見てくれているような感覚がありました。「この会社なら私らしく働けそう」と思えたのが一番の理由です。あとは働いている社員の方たちがみんなきれいで華やかだったのも大学生の私にはセンセーショナルでしたね。「すごい会社!」って(笑)。
――入社3年後、グルメメディア『ヒトサラ』(旧名称:『グルメGyaO』)の営業として優秀な成績を収めながらも退職を申し出たと聞きました。
そうなんです。営業の成績はずっとよく結果も出せていたので、生意気だったんだと思います。「ここにはもう敵はいない」「もっと自分が成長できる環境を探してみたい」と、成果がそのまま収入に反映されるフルコミッションの外資系保険会社への転職を本気で考えていました。
退職の意思を伝えたのは今も尊敬するグループ内の上司。「本当にその仕事やりたいの?」と聞かれ「やりたいです」と答えて帰ったものの、その言葉がずっと頭から離れず。よく考えてみると転職は「もっと成長したい」「お金を稼ぎたい」からの選択で、保険の仕事がしたいわけではなかった。今の環境でもまだ挑戦できることがあるのではと、会社に留まることを決めました。振り返ると上司は私を無理に引き留めるのではなく、自分自身と向き合うきっかけをくれたんだと思います。あのとき辞めなくて良かった、そうでなければ今の自分はなかった。上司には本当に感謝しています。
――そんな上司が長澤さんに与えた挑戦が、課長というポジション。プレイヤーから管理職へ、キャリアの大きなターニングポイントではどのような苦労がありましたか?
課長に抜擢してくださった上司からは「会社で働くうえでは、マネジメント職をやってみて見えてくる未来もあるよ」と言われました。人を育てるなんて考えたこともなく、マネジメントに自信もありませんでしたが、踏みとどまったからには挑戦です。これまでは自分が頑張ればすぐに結果が出ていましたが、マネジメントはそうはいかず。最初はその違いにすごく苦労しました。営業職は同じゴールに向かってそれぞれ努力するわけですが、ゴールに到達できない人たちをどう導いていけばいいか。最初は私がやってきたことを「ぜひ試してください」と徹底的にインプット、1から10まで指示するようなスタイルでやっていたのですが、離脱や成績が下がる人が出てきてしまって。
ショックだったのは部下を「私は長澤さんにはなれません」と泣かせてしまったこと。その部下とはプライベートで一緒に飲みにいくような間柄だったので、そんな関係であっても意見できないほどの鬼軍曹になっていたんだと反省。結局は部下を育成しているつもりで、自分と同じ人を作ろうとしていただけだったんですよね。未熟すぎました。
――そこから長澤さんはマネジメント職としてのご自身の在り方を、どのように改めたのでしょうか?
意識するようにしたのは、答えを教えるのではなく「自分で答えを見つけられるようにサポート」すること。私の意見を話す前に、まず相手の話を聞く。同じ言葉をかけても響く人がいる一方、異なった伝え方の方が力を発揮できる人もいる。その人に合った関わり方を考えることがマネジメントの仕事なんだと気づきました。待つのが苦手な性格なので、成果を出すのに時間をかけるやり方は正直楽ではありません。でもそうすることで結果的にチームの雰囲気も業績も良くなって、ひとりで頑張っていた時代よりもチームのメンバーが成長して成果を出せたときの方が喜びも倍増。その喜びを知れたことは今も働くうえで大きなやりがいで、管理職にならないと知り得なかったことだと思います。
年齢や性別に関係なく結果で示す、トップとして挑む食ビジネスの未来

――そして2023年にはWannaEatの取締役副社長、2025年には代表取締役社長に就任。どちらもグループにおいて「女性初」と話題になりました。プレッシャーはありましたか?
「女性初ですね」と言っていただくことは多いのですが、私としてはあまり意識したことはありません。性別よりも「任せてもらえた以上は結果を出そう」という気概でやってきました。その付帯効果として、年齢や性別に関係なく挑戦したい人にチャンスがある会社なんだと思ってもらえたら一番嬉しいなって思います。実はロールモデルという言葉もちょっと苦手で、それこそ「長澤さんにはなれない」と泣かせてしまった過去があるくらいなので(笑)。最近占い師に「将軍の星がある、男の中の男だね」と言われたのには笑ってしまいました。
――代表取締役社長としてのやりがい、むずかしさについて教えてください。
経営は本当に正解がありません。市場もどんどん変わるなかで、毎日何かを決断しなければなりません。むずかしさに頭を抱えることもありますが、でもその判断で社員や会社の成長を実感すると、「やっぱり、この仕事はおもしろい」となりますし、社員に「この会社で働けて良かった」と思ってもらえる会社にしていくことは最高のやりがいです。
これまで働いてきたなかで大変なこと、苦しいことはたくさんありました。辞めようと思ったこともあります。それでも「仕事が楽しくない」となったことは一度もないんです。目の前の仕事に本気で向き合えば、少しずつ出来ることが増え、お客様に喜んでいただけたり、仲間と成果を分かち合うことができたりと、どんな仕事であっても必ず面白くなってくる。私のこれまでの経験から実感していることです。
WannaEatにおける私の使命は、食ビジネスに欠かせないインフラへと成長させること。まだまだ成長途中の会社ですが、だからこそアイデアや挑戦次第で新しい価値を創造できるチャンスがあると思っています。食べることは人を笑顔にする、飲食店は街を明るく照らしてくれる。私が飲食の仕事が大好きな理由です。
「スーパーマンにならなくていい」キャリアを支えた言葉

――最後に。長澤さんの「働く人生」を動かした言葉とは?
幹部育成のための研修で、U-NEXT HOLDINGS宇野康秀代表取締役社長CEOが最後におっしゃった言葉です。「ここで学んだことを全部記憶して、全部ひとりでできるスーパーマンはいない。それぞれが自分の強みを活かし、自分にできないことは優秀な人に補ってもらえるような人間力を身につけなさい」
何でも自分でできるようにならなければいけないと思っていた私にとって、考え方を大きく変えてくれた一言でした。たとえば私は外交が得意ですが、一方で物事を論理的に分析・思考する場面では、得意なメンバーの力を借りています。お互いの得手不得手を理解する姿勢に変化したことでキャリアアップしていった実感。経営者になった今、その言葉の意味をより深く理解できたような気がしています。
取材・文:櫻井裕美 撮影:土岡虎太郎
- Tag
- #Interview #Work
Profile
-
-
長澤里美
2009年に新卒で株式会社USENへ入社。2019年に株式会社USEN Media(現:USEN)法人ソリューション部長、2020年には株式会社USEN FB Innovation(現:USEN PAY)執行役員に就任し、外食・店舗向けソリューション事業の成長を牽引する。2023年、WannaEat株式会社(旧社名:株式会社バーチャルレストラン)の取締役副社長に就任し、2025年より代表取締役社長(現職)を務める。併せて、一般社団法人日本飲食団体連合会(食団連)および一般社団法人日本デリバリー協会(JDA)の理事を兼任し、飲食・デリバリー業界全体の発展にも寄与している。
Related
関連記事
Recommend Movies
おすすめの動画
-
2026.07.20 #Lifestyle
松嶋初音はなぜキラキラしてる? LOVEなもの7選をご紹介します。「松嶋初音の推しビトvol.2」
-
2026.06.22 #Interview
見えないものを追う女性たちの座談会。「松嶋初音の推しビトvol.1」今月のゲスト/TOCANA総裁 角由紀子さん、怪談師 深津さくらさん
-
2026.08.17 #Movie
自分を犠牲にしない恋愛をするには? 新連載!「IROHAの幸せになる恋愛談義vol.1」 ゲスト:アーティスト・浜野はるきさん
-
2026.07.20 #Culture
児玉美月|見つめ合い、走り出す女性たちの愛【自分らしく生きるための映画紀行 第7回】
Recommend
おすすめの記事

