児玉美月|女性たちの声と連帯【自分らしく生きるための映画紀行 第6回】

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#Metoo運動の前夜

ミーガン・トゥーイーがワインスタインの事件に着手する前に追っていたドナルド・トランプは、性暴力を告発されようとその後大統領に当選し、彼女は無力感に苛まれていた。しかし翌年には、ニューヨーク・タイムズ紙によるセクシュアルハラスメントの報道を受け、FOXニュースの司会者ビル・オライリーは降板へと追い込まれた。『SHE SAID』のなかで、それは加害者が必ずしも責任を逃れるとは限らないとトゥーイーに希望を抱かせる。そのFOXニュースでの組織的な性暴力の実態を暴き出したのが、#MeToo時代を直接的に主題にした初期の映画と称される『スキャンダル』(2019年)だった。

Academy Award® is the registered trademark and service mark of the Academy of Motion Picture Arts and Sciences. Bombshell © 2019 Lucite Desk LLC and Lions Gate Films Inc. All Rights Reserved. Artwork & Supplementary Materials © 2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

2016年、アメリカのニュース放送局であるFOXニュースの当時CEOだったロジャー・エイルズを、キャスターのグレッチェン・カールソンがセクシュアルハラスメントで提訴した。映画はカールソン、同じく被害に遭っていたキャスターのメーガン・ケリー、映画オリジナルのキャラクターである新人キャスターのケイラの三人の女性たちを主軸としている。『スキャンダル』はケイラがエイルズに性的要求を受ける一部始終を赤裸々に可視化している点で、性暴力そのものの再現を徹底して避けた『SHE SAID』や2020年代以降の#MeToo映画とは、表現の在り方を異にしている。傷ついたケイラは同僚でレズビアンのジェスに相談するものの、ジェスは職場での立場を守るために、彼女を助けることは拒んでしまう。

『スキャンダル』は、同じ経験や感情を共有する女性たちであっても、いかに連帯することが困難であるのかを前景化させる。劇中、登場人物たちがカメラ目線でこちら側に何かを語りかけてくる描写や、心情がモノローグとして観客のみに聞こえるような手法が取られている。その創作上の選択は、観客が登場人物たちに親しみを覚える効果をもたらし、映画にエンターテイメント作品として軽快さを与えるのにも一役買っている。くわえて、性暴力やハラスメントについてまだまだ理解が及ばない世界で、彼女たちが誰かとたやすく言葉を交わせないほど分断されているからこそ、その第四の壁を破る語りかけは、この映画と出逢うわたしたち観客へ切実さを伴って向けられてもいる。

Academy Award® is the registered trademark and service mark of the Academy of Motion Picture Arts and Sciences. Bombshell © 2019 Lucite Desk LLC and Lions Gate Films Inc. All Rights Reserved. Artwork & Supplementary Materials © 2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

映画は現実の通り、FOXニュース側が和解金を提示し、グレッチェンが秘密保持に同意する場面で幕を閉じる。弁護士陣はこれで「口輪をはめられる」と念を押し、グレッチェンは “Maybe”(多分ね)と返す。そして、この翌年である2017年に、#MeToo運動の大きな波が起きてゆく。その前夜を切り取った『スキャンダル』においてグレッチェンが発するこの含みのある最後の一言が、決して黙らされることのない無数の声の到来を予告していることを、わたしたちはすでに知っている。

文:児玉美月

『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』
DVD: 3,980 円 (税込)

発売・販売元: 株式会社ハピネット・メディアマーケティング
(C) 2022 UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

※記事公開時の情報です。

 

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『スキャンダル』
¥4,180(税込)
発売・販売元:ギャガ
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Artwork & Supplementary Materials © 2020 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

 

Profile

児玉美月さん

児玉美月

映画批評家。パンフレットや雑誌などに多数寄稿。共著に『彼女たちのまなざし 日本映画の女性作家』『反=恋愛映画論──『花束みたいな恋をした』からホン・サンスまで』『「百合映画」完全ガイド』がある。

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