児玉美月|女性たちが法廷で立ち向かってきたもの 【自分らしく生きるための映画紀行 第13回】

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「女が裁判起こすと、身ぐるみ剝がされるって言うじゃないですか」

同じく、女性弁護士が法廷で性差別と闘う10月2日公開の『ファーストボイス』は、日本初のセクシュアルハラスメント裁判として知られる「福岡セクシュアルハラスメント裁判」から着想を得ている。福岡セクシュアルハラスメント裁判が提訴された年の1989年、「セクハラ」は新語・流行語大賞の新語部門で金賞を受賞した。本来、セクシュアルハラスメントとは職場または労働の場において行われる、権力構造を背景にした望まない性的行為や言動を指すが、略された「セクハラ」はその後、意味を拡大しながら急速に社会に普及していった。

出版社で働いていたライターの上原恵は仕事にも熱心で同僚たちから慕われていたが、年下の女性が優秀であることに嫉妬した上司から性的中傷を受け、最終的に不当解雇されてしまう。当時の日本ではまだ「セクシュアルハラスメント」という概念も浸透しておらず、恵は名誉毀損で訴えたいと法律事務所に相談を持ちかけるものの、勝てる見込みはないとして断られ続ける。偶然、女性のための法律事務所誕生の新聞記事を見かけた恵は、一縷の望みをかけてその朝日弁護士のもとを訪れる。

無事に朝日弁護士からの協力を得て、裁判をともに闘う女性支援者たちを集めていくなかで、恵は自分の受けた被害の全容を包み隠さずに話さなければならないことへの懸念を拭いきれずにいた。「女が裁判すると、身ぐるみ剥がされるって言うじゃないですか」という栞の言葉が夜の街をひとり歩く恵の脳裏に残響し、通りがかった映画館で上映されていた『告発の行方』のポスターのイメージが重ね合わせられながら、恵の不安定な精神状態を表すように画面が回転する。

『告発の行方』は、日本では1989年に劇場公開された。1983年にマサチューセッツ州のバー「ビッグ・ダン」で当時21歳だった被害者が、4人の男性からおよそ2時間にわたって性的暴行を受けた事件をもとにした『告発の行方』は印象的に劇中で引用されているだけあって、『ファーストボイス』と重なり合う部分が随所に見受けられる。

『告発の行方』では、サラの事件を担当する検察官キャサリンが、被害を受けたのは挑発的な服装をしていたからではないかと問い詰める。『ファーストボイス』でも、朝日弁護士の事務所で働く新人弁護士である栞が、「女性を強調する身なりは男性を誘っているようにも見える。あなたにも隙があったんじゃないか」と恵を責める。両作ともに、味方側の女性であっても、性暴力を正当化するために被害者の落ち度を追及する二次加害が平然と行われてしまう時代だった。『ファーストボイス』ではそのクライマックスで、そうした服装についての誤解が退けられ、ファッションと女性の自己決定の結びつきを力強く喝破する。

また、『告発の行方』でも『ファーストボイス』でも、有害な男性性に無自覚な男性が目立つが、一方で被害者側を擁護するキーパーソンとなる若い男性の証人が登場してくる。そうして上の世代への違和感を抱えて葛藤する男性の存在は、ホモソーシャルな社会が苦しめるのが決して女性だけではないこと、あるいは時代が転換する兆しを象徴してもいるだろう。『ビリーブ』と『ファーストボイス』の根底には、性差別が女性のみならず、社会の構成員の誰もが関わるべき問題であるという確固たる信念がある。

Profile

児玉美月さん

児玉美月

映画批評家。パンフレットや雑誌などに多数寄稿。共著に『彼女たちのまなざし 日本映画の女性作家』『反=恋愛映画論──『花束みたいな恋をした』からホン・サンスまで』『「百合映画」完全ガイド』がある。

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