児玉美月|女性たちが法廷で立ち向かってきたもの 【自分らしく生きるための映画紀行 第13回】
優遇するのではなく、その足をどけてほしいーー
黒や灰色のスーツに身を包んだ夥しい男たちの群衆のなか、たったひとり鮮やかなコーンフラワー・ブルーのスカートをはためかせながらロースクールへと入ってゆく、ルース・ベイダー・ギンズバーグ。視覚的なインパクトを与えるこのオープニングシーンで幕をあける『ビリーブ 未来への大逆転』は、1970年代前半までに軸足を置き、2020年9月にこの世を去るまで米国最高裁判事として歴史に名を刻んだギンズバーグが性差別的な法を巡って争うようになるまでを描く。

1956年、ギンズバーグは女子学生の受け入れが始まって6年後のハーバード・ロースクールへ入学。そのとき、500人以上いた新入生で女性はわずか9人だった。映画の序盤、女子学生たちの歓迎を祝う食事会で、学部長は彼女たちに対し、男子学生の席を奪ってまで入学してきた理由はいったい何なのかと問う。ギンズバーグが最高裁の口頭弁論で発した言葉──女性を優遇しろとは言っていません。ただ私たちの首を踏みつけているその足をどけてほしいのです──の核心にある通り、彼女たちは“奪った”のではなくもとから“奪われていた”ものを取り戻したにすぎない。
ロースクールでは、中央に座ったギンズバーグが講義で発言するため懸命に手を挙げたとしても、ほかの男たちばかりが当てられてしまう。いざギンズバーグが発言しはじめても、話を終える前にほかの学生に横入りされてしまう。ギンズバーグは優秀な成績を収め、コロンビア・ロースクールを首位タイで卒業したにもかかわらず、ニューヨークの法律事務所はことごとく不採用となり、希望していた実務家の道を歩むまでには研究職や大学教授などの職を経ている。

『ビリーブ』はギンズバーグが初期に手がけた事例として、あえて1972年に判決が下された「モリッツ裁判」をフィーチャーした。チャールズ・モリッツは母親の介護費用を負担していたため所得税から控除しようとしたところ、連邦税法において未婚男性は対象ではないとして拒否されたという。ケア労働は女性のものであり、男性は外で働くものであるという強固な性別役割分業によって、介護をする独身男性はその存在を社会が想定できていなかったのだった。
ギンズバーグは性別によって権利を区別する税法の規定が、憲法修正第5条の保障する平等の原則に反すると裁判所に認めさせた。実際にはそれまでにギンズバーグは女性を原告とする性差別案件も扱っていたものの、映画は戦略的にモリッツ裁判を押し出し、男性もまた性差別によって不利益を被りうることを伝えようとする。
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