おしゃれも恋も、諦めなくていい。新進気鋭のシェフ・木本陽子さんが描く、女性料理人の未来
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表参道の華やかな大通りから路地に入った先にある、築70年を超える一戸建ての古民家レストラン「HYÈNE(イエン)」。昭和の趣を残した外観に、あえて看板は掲げず、「RESTAURANT HYENE前」と記されたバス停のオブジェが目印です。新進気鋭の女性シェフが手がける店として瞬く間に話題を呼び、料理業界でも注目を集める木本陽子さん。現在は1児の母でもありながら、料理人として第一線に立ち続けています。
男性社会といわれる料理の世界で、出産や子育てを経てもなお、キャリアを続けることはできるのか。仕事と育児はどう両立しているのか。今回のインタビューでは、料理人としての覚悟や働き方への考え方、そして一人の女性としての生き方まで、率直に語っていただきました。
“パリに住みたい”という淡い憧れが、料理人の人生を切り拓いた
――表参道の路地に、こんな静かで魅力的な場所があるなんて驚きました。
祖母が表参道に住んでいたこともあって、このエリアは私にとって思い出深い場所でもあるんです。お客さんとの距離を近くしたかったので、あえて店内はコンパクトなつくりにしました。以前働いていた「ラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション」もカウンターキッチンのスタイルだったので、その影響もあると思います。サービスマンを介するだけではなく、できるだけお客さんの声をダイレクトに聞きたい、という思いが昔からありました。
――料理人を志したきっかけは何だったのでしょうか。
子どもの頃、海外出張の多い母に連れられて、さまざまな国を訪れていました。そのなかで一番心を奪われたのがパリ。気に入ったというより、恋をしてしまった、という感覚に近かったかもしれません。
「ここに暮らしたい」と思い、フランス料理の料理人になればこの地で生きていけるかもしれない。そんな思いが、料理の道の入口でした。父が建築士だったこともあって、その血を受け継いだのか、手を動かして何かをつくることも好きだったんです。そういう意味でも、ものづくりに関わる仕事に惹かれていたのだと思います。
実は同時に、パイロットにもなりたかったんですよ。空がすごく好きなんです。でも視力がよくなくて断念しました。もし視力がよかったら、今でもなりたいくらい(笑)。なぜそんなに空が好きなのかと聞かれると、うまく説明できないのですが……。まず、飛べるってすごくないですか? 極端な話、鳥になりたいくらいです。
――パイロットの木本さんも見てみたいです! 木本さんはとてもパワフルなイメージなのですが、子どもの頃はどんな性格だったんですか?
おとなしい方だったと思います。でも、自己主張はしっかりする子どもでした。嫌なものは嫌と言えるタイプで、それは今も変わりません。絵を描くのが好きだったので、外で遊ぶより家で一人で過ごすことが多かったですね。どちらかというとインドアでした。
ただ、大人になるにつれて人と関わることが好きになって、徐々にアウトドアになっていった感覚があります。お酒も好きなので、にぎやかな場に行くのも好きです。パーティみたいなガヤガヤした集まりも意外と好きで。まぁ、疲れるには疲れますけど(笑)。
――お子さんが生まれてからは、そうした時間との付き合い方は変わりましたか?
今でもお酒は365日飲んでいます。風邪をひいても飲みます(笑)。もちろん妊娠・出産の時期は我慢しました。子どもがいるので外に飲みに行くことは減りましたが、夫との晩酌は日課になっています。ワインが一番好きですね。お店に置いているワインのラインナップにも、けっこう好みは出ているかもしれません。もちろんお客さんの嗜好も意識して幅広く揃えているつもりですが、独断と偏見は、どうしても出てしまいますよね(笑)。
――女性料理人自体がまだ少ないなかで、お子さんを産んでなお第一線で続けている方は、さらに少ないのではないですか。
あまりいないですね。少なくとも私のまわりには一人もいないので、相談できる相手もいないんです。料理の世界は、いまだにかなり男性社会だと感じます。専門学校時代も、男女比は8対2くらいでした。体力仕事という側面もありますが、それ以上に、そうした文化や構造が長く続いてきたことが大きい気がします。歴史的に、女性が働き続けることを前提とした仕組みが育ってこなかった、というか。
だから妊娠・出産後も働ける環境や設備が十分に整っていないし、女性の身体について理解のある人もまだ少ない。もちろん男性個人が悪いという話ではなくて、社会や教育の問題でもあると思っています。
たとえば女性には月に一度、生理がありますよね。私は男性相手でも恥ずかしがらず伝えるようにしていましたが、そもそもそれを口にしづらい空気がある。そういう“言えなさ”も、女性料理人が少ない要因のひとつになっている気がします。

器はすべて有田焼。木本さんが惚れ込んだ工房にオーダーメイドで依頼している
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