おしゃれも恋も、諦めなくていい。新進気鋭のシェフ・木本陽子さんが描く、女性料理人の未来

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料理人は誇りに思っているけど、娘にはなってほしくないです(笑)

――これまでの人生で、ターニングポイントだった出来事はありますか?

中学3年生のときの転校ですね。新しく入った学校が、校則がないと言っても過言じゃないくらい自由だったんです。それまでの私は、母がいわゆる教育熱心なタイプで、小さい頃から塾に通って、受験して、という、ある種レールのある環境で育ってきました。

でも転校先は、まったく毛色が違ったんです。「自分の長所を伸ばそう」という考え方があって、音楽や美術を専攻する子も多くて、どこか芸術学校に近い空気があった。思考がすごく自由だったんですよね。

それまで心の中に秘めていたものを、爆発させてもいいんだと思わせてくれた場所でした。あの転校がなければ、料理人にはなっていなかったかもしれません。勉強して大学に行って、企業に就職して……という人生になっていた気がします。

――それだけ教育熱心なお母さまであれば、専門学校に進んで料理人になることには反対されたのでは?

反対されましたね。「大学には絶対行ってって言ったよね」という感じで、しばらくは、不機嫌な時間もありました(笑)。でも、その反対があったからこそ、結果で示さなきゃいけないとも思ったんです。専門学校ではちゃんと成績を取っておこうと思って勉強も頑張っていましたし、母が反対した以上は、星付きのレストランに入ると決めていました。

もちろん、星があるから絶対おいしい、という話ではないです。でも、料理業界にいない人にとっては、「星付き」というのがひとつわかりやすい基準でもあると思ったんです。だったら、まずそこで認めてもらおう、と。今は逆に、すごく応援してくれていますよ。雑誌の切り抜きを取っておいてくれたり、テレビに出ていたら録画してくれたり。そういうのを見ると、うれしいですよね。

――では、ご自身のお子さんには、どんなふうに育ってほしいと思いますか?

これは理想論かもしれないですが、人にさえ迷惑をかけなければ、できるだけ自由にやってほしいですね。まだ言葉も話さないのでこれからですが、「やりたい」と言ったことは、できるだけやらせてあげたい。もちろん、お財布との相談はありますけど(笑)。
「やりたい」を制限しすぎると、自分で考える力まで失ってしまいそうな気がして。私は、なるべく否定から入りたくないんです。

――もし「料理人になりたい」と言われたら?

あ、それだけはダメかもしれないです(笑)。料理人には、正直なってほしくないのが本音です。自由にやってほしいと言っておいて矛盾しているんですけど、自分が酸いも甘いも知ってしまっているからこそ、そう思ってしまうんですよね。どうしても背中を押しきれない。

料理人になること自体が悪いわけじゃないんですよ。ただ、内情を知っているからこそ口を出したくなってしまうし、お互いの関係にもよくない気がしてしまって。

――それでも、どうしてもやりたいと言ったら?

そのときは、「そんな甘い世界じゃないから、覚悟してやりなさい」と言うと思います。どの仕事も大変ですが、料理人はやっぱり、厳しい職業のひとつだと思うので。

――今後、このお店をどんな場所にしていきたいですか? 何か展望があれば教えてください。

まずはお店をしっかり存続させていきたいですね。そのうえで、スタッフそれぞれにファンがついて、「あの人に会いたいから来る」という理由でお客さんが足を運んでくれる店になったらいいなと思っています。店ではなく、人に惹かれて人が集まるような場所というか。

私自身、育児で以前のようにずっと店に立つことは難しくなってきているので、少しずつ育児に専念できる時間を増やしていきたいという思いもあります。最終的には、自分がずっと現場に立ち続けるというより、料理そのものは考えながら、プロデュースする役割に回っていくのがいいのかな、と。とはいえ、お客さんとたわいのない話をするのも楽しいので、それも楽しみながら、いいバランスで働けたらいいな、と思っています。

取材・文:竹尾園美 撮影:小川健

Profile

木本陽子

木本陽子

1991年、東京生まれ。日本人の父と韓国人の母を持つ。辻調理専門学校を卒業後、「ラトリエ・ドゥ・ジョエル・ロブション」で5年間研鑽を積む。その後、韓国・ソウルの宮廷料理店「ハンミリ」に料理留学し、自身のルーツと向き合いながら料理の世界観を広げる。帰国後、生産者や環境問題への関心も深め、日本・韓国・フランスのエッセンスを横断する独自の料理表現を追求。2021年、表参道に古民家レストラン「HYÈNE(イエン)」をオープン。2022年には若手料理人コンペ「RED U-35」で岸朝子賞を受賞。1児の母として子育てをしながら、料理人として第一線に立つ。

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