おしゃれも恋も、諦めなくていい。新進気鋭のシェフ・木本陽子さんが描く、女性料理人の未来
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若いシェフには、おしゃれも恋も遊びも謳歌してほしい
――本当に厳しい世界だと思いますが、そんななか木本さんが続けてこられた原動力は何だったのでしょうか。
うーん……最初の頃は、もう“負けず嫌いだったから”に尽きますね。専門学校もかなり厳しかったですが、やると決めたら何を言われても大丈夫なタイプで、むしろそういう環境に高揚するところがあったんです。真剣な現場で踏ん張っている自分が、わりと好きだったというか(笑)。それはそれで楽しかったですね。
学校でもあまり友達はつくらなかったです。クラスメイトというより、ライバルだと思っていたので。一緒に就職活動をするわけだから、行きたいレストランを取られたくない、みたいな気持ちもありました。就職してからも続けてこられたのは、その負けず嫌いがいちばん大きいと思います。途中で投げ出したらかっこ悪いじゃないですか。そんな自分は好きになれない。若い頃から「お金を払ってでも苦労はしたほうがいい」と思ってきたし、頑張った分だけあとが楽になるとも思っていました。
今は、自分が得意なことで誰かが喜んでくれることがやりがいになっています。人と関わることも好きなので、もし宝くじが当たっても、働くことは絶対にやめないと思います。
――そんななかで、「HYÈNE」をオープンする際、「完全週休2日」と「1日8時間労働」の実現を目標に掲げられていますよね。
正直、1日8時間労働は、まだ完全には実現できていないんです。飲食店はどうしても仕込みに時間がかかるので、難しい部分はあります。ただ、少なくとも「1日8時間労働を目指す」と掲げているシェフのもとで働くほうが、健全ではあるのかなと思っています。
――この目標を掲げようと思った理由は何だったのでしょうか。
先ほど、「若いうちは、お金を払ってでも苦労したほうがいい」と話しましたが、私は今でもそれはある程度そう思っていますし、自分が大変な時代を経験できたことはよかったとも思っています。
ただ一方で、時代は変わっているとも感じているんです。私だって10代、20代の頃は、おしゃれもしたかったし、友達ともっと遊びたかった。恋愛だってしたいお年頃ですよね。その気持ちはすごくわかるんです。
だから今の若い世代には、ちゃんと休みながら、自分の人生も謳歌してほしいと思うんです。仕事だけにすべてを捧げるのではなく、暮らしや経験そのものが、結果的に料理にも返ってくると思うので。料理人を志望する人は年々減っていますし、もっと働きやすい環境が整えば、「料理人になりたい」と思う人も増えていくかもしれない。そういう未来につながればいいなと思っています。

離乳食レシピで、女性料理人の在宅ワークを実現したい
――お子さんが生まれて、時間の使い方や価値観に変化はありましたか?
めちゃくちゃあると思います。もともと仕事で生きていくくらいの感覚だったので、いつまでに結婚したいとか、子どもがほしいとか、そういう人生設計を考えたことがほとんどなかったんです。私生活に対しては、かなり淡々としていました。結婚するとも思っていなかったし、自分が子どもを産むとも思っていなかったんです。
しかも、実は子どもってあまり得意じゃなかったんですよ。嫌いではないけれど、特別好きでもないというか……小さいよちよちした生き物がいる、くらいの認識で(笑)。でも、生まれたら「なんて天使なの!?」と思うようになりました。それは180度変わりましたね。
――夜泣きなど、大変さはどうでしたか?
少し前まではすごかったです。1歳2カ月くらいまでは、夜中に起きることも多くて。今は体力がついてきたのか、長く寝てくれるようになってだいぶ楽になりました。まだ保育園デビューはしていないので、これから外との関わりが増えて、刺激で興奮して眠れなくなることはあるかもしれませんけど。
――結婚や出産に迷いはなかったですか?
迷いは、あまりなかったですね。仕事ではかなりリスクヘッジを考えて動くタイプなんですが、人生のことになると、わりと「えい、いっちゃえ」という感覚があるんです。結婚も、「まあ、するか」くらいのテンションでした(笑)。もちろんスタッフを抱えているので、何も考えなかったわけではないです。責任もありますし。
でも、悩んでいてどうにかなるものなのかな、という思いもあって。そもそも妊娠できるかどうかもわからないし、「考えがまとまるまで産まない」としていたら、たぶん一生産まない気もしたんです。だから、ある意味では「とりあえずやってみよう」という感覚はありました。すごく計画的だったというより、直感に乗った部分のほうが大きかったかもしれません。
――離乳食の発信もこれからされていく予定だとか?
そうなんです。離乳食のレシピ提案をしていきたいと考えていて。これは女性料理人の在宅ワークにつながる可能性があるのでは、という現実的な発想からなのですが、OEMの仕組みを活用すれば、子育て中でも関われる仕事の形をつくれるかもしれない。そういう意味で、女性の働き方の選択肢にもなりうると思っているんです。
あとは純粋な妄想でもあるんですけど、“料理人がつくる離乳食を食べてみたい”と思うお母さんも、一定数いるんじゃないかと感じていて。そこにはニーズがあるかもしれないなと。
――例えば、どんな価値を提供できると考えていますか?
これは私自身、まだ解決しきれていないテーマでもあるんですが、子どもの好き嫌いって、調理の仕方によって克服できる部分があると思うんです。うちの娘も、何でも食べるわけではないんですよ。でも、出し方ひとつで反応が変わることはある。たとえば、調味料を使って味を変えてみたり。素材そのものの味がしなくても、まずは「食べられた」という成功体験が大事だと思うんです。
そういう経験を通じて、プロの視点から子どもの好き嫌いにアプローチできる余地はあるんじゃないかと感じています。お母さんの負担なく、好き嫌いを減らせるような離乳食や幼児食を考えてみたいですね。
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