中郡暖菜の“かわいい”の哲学〜新しい女性の生き方を生み出す思考【vol.3 編集部の裏側】
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今、“かわいい”は誰かに選ばれるためだけのものではなく、自分の価値観や生き方を映し出すものとして広がっています。そのカルチャーを発信し続けているのが、ファッション誌『LARME』編集長の中郡暖菜さん。本連載「中郡暖菜の“かわいい”の哲学」では、毎回ひとつのテーマを軸にインタビューを行い、中郡さんの思考や価値観を紐解いていきます。
第3回のテーマは、「編集部の裏側」。企画会議、衣装づくり、写真のセレクト、現場での信頼関係。『LARME』制作の舞台裏をたどると、そこには「自分にしか作れないものを作る」という、中郡さんのものづくりの核がありました。
『LARME』制作の出発点は、企画会議と台割
――『LARME』制作で、最初に決めるのはどんなことですか? 表紙、巻頭、全体テーマなど、どこからスタートするのかを教えてください。
「毎号、編集部で企画会議をして、そこから台割を作ります。順番でいうと、それが一番最初ですね。表紙と巻頭は私が担当するので、そこは一旦空けたままに。その後ろに続くページの内容を、編集会議で出た企画からピックアップしていきます。『LARME』は一冊通してのテーマを定めることはあまりなく、それぞれの企画がわりと独立したスタイル。ほぼ一人で作っていた創刊初期の頃は、一冊かけてこのテーマ、という作り方もしていたんですけど、関わる人が増えた今は、それはなかなか難しいので」
――企画会議では、どんなふうに企画を出し合うのでしょうか?
「外部の編集さんではないLARMEスタッフの5、6人それぞれが10本ずつ企画を用意し、発表してもらうのが通例です。企画出しもセンスが問われるので、考えるのが上手な子の企画からほとんど決まっちゃうなんてこともあります」
――『LARME』は衣装まで作り込んでいる印象があります。ファッション誌というと、ブランドから借りた服を見せるスタイルが主流のなか、独特ですよね。
「昔はもちろんリースしていました。でも、特に表紙については、衣装を自分たちで作ったほうが、思い通りの世界を表現するには都合がいいんですよね。たとえばモデル8人で表紙を撮るとなると、リースだと衣装の色合わせが難しかったり、差が出ちゃったりするんです。衣装を制作するときは、スタイリストさんと相談してから、衣装さんにビジュアルのテーマとイメージ、リファレンスを渡して依頼しています。ファッション誌の多くは“洋服を売る”ですが、『LARME』は“世界そのものを届ける”という感覚のほうが近いです」

信じて委ねてもらえるよう、現場の空気をつくる
――自分の担当ではない企画は、編集部員にどこまで任せるのですか?
「それぞれの編集担当に、わりとお任せしています。“タイトルはこれにしてください”、“イメージカットはこういう感じで”と指定することもありますけど、他の雑誌も携わっているスタッフさんから“『LARME』は任せてやらせてもらえる”と言われるので、私がOKを出す範囲は案外広いのかもしれません。とはいえ、自分の担当企画の場合は全然違って、自分が納得するまでは、かなりやり直すタイプ。衣装を丸ごと変えることまではあまりしないですけど、靴下や靴を変えたり、何かを足したり引いたりしながら、細かく作り込んで撮影するのが常ですね」
――モデルやアイドルの方が、衣装やビジュアルを中郡さんに委ねてくれるのは、信頼関係があってこそだと思います。それはどう築いてこられたのですか?
「たしかに、信頼は大事だと思います。信頼関係がないと、非常に繊細な子の場合は、撮影現場に来てくれないということまで起こりえるので。何か違うなと思わせてしまうなど、信頼関係を損ねることをしていたら、たぶんその関係性は作れない。モデルのお仕事は表現をすることなので、やはり自分自身の感覚を大事にしている子が多いと思います。その中で、“この人のセンスが好きだ”、“みんなに喜んでもらえそう”などと感じてもらうことは、スムーズに信頼関係を築くコツかもしれません。体育会系ノリで“私の言うことを聞け!”と指示するのではなく、みんなにとってプラスになる場を作りながら、“目指すゴールはここですよ”、“このゴールが一番いいところですよ”と先導できることが大事。そのために必要な説得力を、たくさん本を読むことや、いろんなものを見たりすることで、自分のなかに培ってきたのかもしれません」
――モデルに起用した方の魅力を引き出すために、大切にしていることはありますか?
「それもやっぱり、信頼してもらうことじゃないですかね。私って撮影現場にはすっぴんにスウェットで、髪もボサボサで行くんですよ(笑)。見た目での好印象は狙えていないと思いますが、そんなことは制作現場では最も必要のないことなので。それよりも作品作りに集中し、的確に撮影を進めることの方が、信頼を得られるように思います。ライティングの照明や色味、印刷でどう見え方が変わるかも、ある程度把握できているので、そういうスキルが伝わると、“経験値のある人だから、ついていったほうがいい”と思ってもらえるのかなって。あとは、LARMEのメインスタイリストさんはモデルの骨格や雰囲気に合わせて素敵な衣装を用意してくださるのと、百戦錬磨のヘアメイクさんがその子の嫌がりそうなところまで汲んで仕上げてくれる。撮影に入る前の段階で、自分のことをちゃんと考えてもらえている安心感を仕込んでおくと、全体的なコンディションが上がると思います」
――仕事を円滑に進めるために、編集長として心がけていることはありますか?
「レスを早くする、ですね。メールやLINEは溜めると忘れてしまうし、寝かせる必要がないことは、その瞬間その瞬間で返す。編集の仕事って、連絡がすべてじゃないですか。連絡が遅かったことでうまくいかなくなったり、本当は叶いそうだったことが叶わなくなったりすることがある。特にキャスティングは、電話を取れるかどうかが大事な場面もあります。芸能事務所の方はたくさんの引き合いの中で動いているので、“この人は、いつでもすぐにレスがある”と認識してもらえたほうが何かあった際の安心感にも繋がるし、絶対にいいですよね」

写真は「光って見える」ものを選ぶ
――前回のインタビューで、ご自身の編集者としての強みに、写真のセレクトを挙げていらっしゃいました。たくさんの写真から最終の1枚を選ぶとき、何が決め手になりますか?
「これだ!というのが、わかるんですよね。表情だったり角度だったりポーズだったり、要素はいろいろありますけど、セレクトしているときに考えるのは、自分がこの写真を選ばれたらどうかな、ということ。被写体の気持ちになって、この写真を選ばれたら嫌だろうなと感じたものは外します。これが一番うれしいだろうなと思う写真を、直感で選ぶ。明確な基準や条件があるわけではなく、とにかく第一印象。それが一番いいものが、ビジュアルとして強いので」
――その「これだ」という感覚を、もう少し言葉にすると?
「光っているように見える感覚、ですね。美術館に行っても、私は順番に全部の作品を見ることはないんです。ぱーっと全体を見て、いいなと思うものがあると、自然と吸い寄せられて、そこを集中して見る。ドローイングは作品じゃないと思っているので、どんなに有名な画家のものでもあんまり興味がないです。作品としてアウトプットされていないものは、基本的に見る必要がないと思っているので。逆に、特にいいなと思ったものは、最後にもう一度戻って見ることもあるのですが、写真のセレクトでも同じことが起こるんです。バーッと見たときに、これだ!と思う一枚が光って見えます。そういうのは画像の番号を控えていなくても見分けがつくので、念の為最後までチェックしてから、やっぱりさっきの写真だったなと舞い戻り、それに決めることが多いですね」
――色味やデザイン、文字の組み方といった細部の作り込みも、『LARME』らしさを支えていますよね。レタッチやデザインのやりとりで、こだわりはありますか?
「人選がすべてな気がします。わかってもらえない人にいくら話しても伝わらないので、私がやりたいことをわかってくれると感じた人をアサインする。そのうえで、結構戦ったりもします。喧嘩ではないですけど、“これは全然違う”とか言うこともありますよ。『LARME』の表紙デザイナーさんは創刊時からずっと一緒にやってくれている方なんですけど、最初からとってもかわいく仕上げてくれるときもあれば、中々完成に結びつかないこともありまして。信頼しているが故にもっとできるはずだと知っているから、ついつい言ってしまったりするんですよね。そうじゃない相手だったら、期待がないぶん、別に怒ったりもしないんでしょうけど。信頼している方だからこそ、1mm単位で調整してもらうこともありますし、本音で話して20回くらい修正を重ねることも。デザインは、入稿のときに一番妥協したくないところですから」
アイドルの“まだ見ぬ一面”を、『LARME』の世界で引き出す
――『LARME』では、アイドルの方をモデルとして起用する機会も多くあります。中郡さんは、アイドルという存在をどう見ているのでしょうか?
「私は、自分がアイドルになりたいと思ったことがないタイプなんです。だからこそアイドルになりたいという気持ちって、すごく特別な才能だと思うんです。私は昔から人前で何かを披露するのが苦手で、幼稚園のお遊戯会でも、メインどころより村人Bのほうがよかった(笑)。さらに言うなら、村人Bよりも総合演出がいいんです。照明とか音響とか衣装とか脚本とか、とにかく裏方の作業が好きで、表舞台に立つ人ではなく、裏方で一番権限がある人になりたいという気持ちがありました。『LARME』を創刊してから、第一線のアイドルの方たちとずっとお仕事をしてきましたが、私は運営でもなく、演者でもなく、ヲタクでもない。その中間にいる存在として、日本のトップアイドルの世界を15年間くらい見てきた感覚があります」
――記憶に残っているアイドルはいますか?
「印象的だったのは、欅坂46です。彼女たちが作ったものには、すごく社会的な意味があったと思うんです。今までとはまったく違うアイドル像だったし、そこに心を寄せる人がたくさんいた。2018年に幕張メッセでのBLACKPINKのライブに行きまして、当時の韓国の最前線のアイドルを初めて見たんですけど、その1週間後に同じく幕張メッセで欅坂46のライブを見たんです。状況的にどうしても比較して見てしまったんですけど、ダンスや歌の上手さはBLACKPINKがとっても凄いんですが、表現力という点では欅坂46が圧倒的に感じました。今でも自分の中では特別な存在です。欅坂46の表現って、こちらから見ると、痛みや切実さを感じる瞬間もあったと思うんです。でも、その危うさも含めて、人の心を強く惹きつけるものがあった。ただ、あれはかなりハイコンテクストな表現でもあったから、今の時代に同じものを課すのは、違うのかなとは思います。今はまた別のアイドルの形ができていて、もっと自由度が上がっている感じがします。ネイルや髪色、メイクも含めて、その子自身の個性を出せる幅も広がっている。もちろん大変なことはたくさんあると思いますけど、のびのびと自分らしさを届けられて、受けとる側もそれが嬉しい時代になっているのは、とっても素敵な変化ですよね」
――専業のモデルや俳優とは違う、アイドルならではの魅力はどんなところにありますか?
「アイドルの子のほうが、一般の感覚に近しいと思うんですよね。だから共感を得られやすいし、見る側も自分事に感じられるからファンになる。その中で特別な存在だというところが、アイドルのかわいいポイントだと思うんです。今はSNSでプライベートも見えるだけに、グループや個人として新しい価値観を表現していけるのも、意味のあることだと思います。昨今のアイドルブームのなか、社会にどんな影響を与えられるのか、どういうインパクトを作れるのかが注目されていると思うので」
――『LARME』でアイドルを撮影するときは、普段とは違う姿を引き出すことも意識されていますか?
「そうですね。アイドルとしては通常はできなかったりすることを、『LARME』では叶えられたりするんです。そこで新しい面を出せると、別の才能として世の中に届き、そこから広がってまた新たな何かにつながっていくことがあると思っています。たとえば、今年のFRUITS ZIPPERの表紙では、ドクロとバラのついた衣装に牙のアクセサリーを合わせて、ガーリーだけど、少しダークな要素を含ませたビジュアルで撮影をしました。彼女たちのふだんのイメージとは違うものですが、『LARME』だからできたことに意義を感じます。ご本人たちも、すごく喜んでくれて私も嬉しかったんです」

自分だから作れる“かわいい”を、世の中へ広げたい
――今回は「編集部の裏側」というテーマなので、ものづくりに携わる方も多く読まれると思います。中郡さんにとって、ものづくりはどんな意味があるでしょうか?
「私は昔、生きるのがあまり上手ではなかったんです。協調性がなくマイペースなので、世間というものに、自分をなじませることができなかった。だから、自分が生きやすい場所を自分で作らないといけなかったんですよね。それで、ものづくりをしているんだと思います。自分が作ったものが広がって、自分のかわいいと思う世界の賛同者が増えると、自然と生きやすい世の中になる。ものづくりが、自分を救うことでもあるんです。だから、他の人でもできることだと結局自分が楽にならないので、自分がやる意味は感じられなくて。自分にしかできないこと、自分が一番やるべきことをやりたい。そしてそれが、多数派ではない側の人を救えるような、そちらの味方になれるようなものであればあるほど、価値があると思っています。作家の村上春樹さんがあるスピーチで語った「壁がどれほど正しく、卵がどれほど間違っていたとしても、私は常に卵の側に立つ」という考え方に、とても共感して。壁というのは、世の中のシステムやルール。卵は、魂や尊厳を持つ非力な個人のたとえです。つまり、卵は素直で、割れてしまう弱い存在なんですね。それでも絶対に、私は卵の側に立ちたい。そのマインドで本を作るのが、私がやる意味だと思っています」
取材・文/高坂知里 撮影/堺優史(MOUSTACHE)
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