詩は一人きりで読まなくていい。作家・永井玲衣さんとともに詩にであう【前編|辻征夫、谷川俊太郎】

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それが蟻の涙ほどのものであっても

―― 「応答」の公式サイトやSNSは、涙粒を垂らしながらふんばる蟻のイラストが印象的です。プロジェクトの紹介文では辻征夫の詩「蟻の涙」に影響されたことも明らかにされていますよね。プロジェクトを支えてしまうほどの一編の詩に、永井さん自身はどのように出会ったのでしょう。

「応答」ロゴ

辻征夫という詩人自体はもともと知っていたのですが、「蟻の涙」という一編にちゃんと出会えたのは2025年に刊行された文庫『辻征夫詩集』のおかげなんです。

「蟻の涙」も有名な詩ではあると思いますが、自分のなかではそれまできちんと出会えていなかったんですよね。本屋でたまたまこの本を買って読んだとき、ズカーンと新たに衝撃を受けたんです。

『辻征夫詩集』2025/8/7発売(角川春樹事務所)



*辻征夫さんの著作権ご継承者の方に許可を得たうえで、ホワイトボードに書き写し撮影/ページの公開をしています。

辻征夫は「誰か」でも「ぼく」でもなく、「世界」を主語にして「きみを信じている」と書きます。

対話の場をつくるために色々な場所に行くなかで、しんどい状況にある場所や人とも場をつくってきました。世界に傷つけられたり、世界から殺されそうになっているような境遇の人たちがこの社会にはたくさんいます。

にもかかわらず、だからこそ、「世界はもうすでにあなたを信じている」と言おうとすることは、とてつもない強度を持った呼びかけだと思いました。そして、私もそう言いたい。

「無垢」とは何か、というところは詩を読んだ人のさまざまな考えをきいてみたい点でもありますが、それが蟻の涙ほどのものであっても「たちあがることができる」んだと。

「どうせ変えられない」「何も表現できない」と抑圧されてしまう人々に向かって、できるよって背中を押してくれるような詩ですよね。だから、「応答」として場を開くときの支えになると思いました。

この本のおかげです。本当に助かっています。

 

―― 「たちあがる」ということばは一見厳しくも思えるけれど、ここで言うそれは「競争社会に参画しろ」などということとは全く別のことですよね。

「たちあがって走れ!」だったら辛いですが、辻征夫はそうではないですよね。私たちは誰もが常にすでに世界に巻き込まれてしまっています。そうしてただ巻き込まれながらも、それでも、自らを世界に巻き込ませようとして根ざすことというか……。

巻き込まれているなかでも動こうとしてみるとか、動けるんだということそのものに気づくとか、たちあがれるということを回復するとか、そういうイメージでしょうか。

あまりにも強い風が吹いて、膝も折れて、「もう二度とたちあがれないかもしれない」と思っている人たちのことも思い出すのですが、でもやっぱり、今はそうかもしれないけど、人は横たわることもできるし、たちあがることもできる。その人の「自由」というものを信じるんだという詩でもあるように感じています。

だから私はこの「無垢」を、「自由」って言い換えることを想像しました。

Profile

永井玲衣

永井玲衣

人びとと考えあい、ききあう場を各地でひらく。門前仲町を拠点とする対話と表現のプロジェクト「応答」、Gotch主催のムーブメントD2021などでも活動。著書に『水中の哲学者たち』(晶文社)『世界の適切な保存』(講談社)『さみしくてごめん』(大和書房)『これがそうなのか』(集英社)八木咲との共著『せんそうって』(講談社)。第17回「わたくし、つまりNobody賞」受賞。詩と植物園と念入りな散歩が好き。

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