児玉美月|女性のルッキズムと家父長制【自分らしく生きるための映画紀行 第9回】

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女性たちを分断させる「美」

『アグリーシスター』と近い時期に日本で劇場公開された『サブスタンス』(2024年)は現代のショービズ界を舞台に、同じくルッキズムをひとつのテーマに持っている。オスカーを受賞した経歴を持つ人気俳優エリザベスは、50歳を迎えて出演していたエクササイズのテレビ番組から年齢を理由に降板させられてしまう。苦境に陥ったエリザベスは失ってしまった美貌を取り戻すため、謎の再生医療“サブスタンス“に手を出し、もうひとりの若き自分である“スー”を出現させる。「一週間ごとに入れ替わる」という定められたルールのもと、そこからエリザベスとスーの「二人で一体」の共同生活が開始してゆく。

©2024 UNIVERSAL STUDIOS

『サブスタンス』の序盤、エリザベスが番組の降板を告げられる食事の場で、カメラはカクテルシュリンプを下品に頬張る悪徳プロデューサーであるハーヴェイのマヨネーズだらけになった口元や手を、スローモーションで画面に前景化させてゆく。エリザベスの視線は、海老の殻が汚く食べ散らかされたテーブルと、ワイングラスのなかに落下し溺れてもがく蝿へと向けられる。社会において「美しい」とされる十分に痩せた体型を維持しなければならないエリザベスは、ハーヴェイのように欲望のまま食い散らかす自由は制限されている。とりわけ女性一般にしてみても、命の危険に直結する摂食障害を罹患するリスクはより高い。

ショービズ界から干されたエリザベスは、そうしたプレッシャーから強制的に降ろされたとたん暴飲暴食へと走ってしまう。ひとつの肉体を共有しなければならないスーは、エリザベスに対して「自分をコントロールしろ!」と激昂する。そうして繰り広げられてゆくエリザベスとスーの攻防戦に顕著なように、ルッキズムをテーマにした映画では、いわゆる「キャットファイト」と呼ばれる見世物的な女性同士の争いをしばしば抱え込む。この「キャットファイト」という造語の根底には、女性は感情的で嫉妬深いといったジェンダーバイアスがある。家父長的な社会において「美」の概念は、女性たちを分断させる武器として動員される。画一的な「美」の基準によって序列化された女性たちは、互いに競合するようになり、家父長制を打破するための連帯の契機は奪われ続けてしまう。

©2024 UNIVERSAL STUDIOS

壮絶な結末を迎える『サブスタンス』は、女性に対して「美」と若さを求める飽く無き大衆の欲望の根源をえぐり出す。劇中、エリザベスは繰り返し鏡で自分の姿を見つめるが、最終的には見る側として安住していたはずの観客こそが、自らの欲望がその末路に何を生み出しうるのかを直視しなければならなくなるのだ。『アグリーシスター』と『サブスタンス』は表現こそ誇張され、戯画化されているものの、「美しさ」という厄介な概念がわたしたちにもたらす痛みそのものは、決して現実離れしてはいない。

 

『アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし』

発売日 2026年7月3日(金)
価格 ブルーレイ4,400円(税込)
DVD3,300円(税込)
発売元 ニューセレクト株式会社
販売元 アルバトロス株式会社

 

『サブスタンス』

発売日 2022年11月12日(水
価格 ブルーレイ5,500円(税込)
DVD4,400円(税込)
発売・販売元 ギャガ

Profile

児玉美月さん

児玉美月

映画批評家。パンフレットや雑誌などに多数寄稿。共著に『彼女たちのまなざし 日本映画の女性作家』『反=恋愛映画論──『花束みたいな恋をした』からホン・サンスまで』『「百合映画」完全ガイド』がある。

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