児玉美月|尊重されるべき沈黙 【自分らしく生きるための映画紀行 第3回】
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語らないことに寄り添う
『ジュリーは沈黙したままで』でも、焦点がより色濃く当てられるのは、たったひとりで抱え込む「沈黙」である。ジュリーのコーチが別の教え子の自殺により指導停止になり、周囲は近い距離にあったジュリーにヒアリングを試みようとするものの、彼女は一向にして口を閉ざす。なぜ、ジュリーは何も語ろうとしないのか。映画は、コーチがテニスアカデミーを追われたあとから開始されているが、ジュリーはつねに携帯電話を握り締めながら眠り、日常を送るなかでも何かにつけてコーチに怒られるかもしれないと気にしているようで、彼の影が終始纏わりつく。コーチと選手は一対一の閉鎖的な人間関係に置かれやすいうえ、コーチはその選手のキャリアに密に関与し生殺与奪を握っているため、支配関係にも陥りやすい。
スキークラブに所属する15歳の女子高校生とコーチの関係を描く『スラローム 少女の凍てつく心』(2020年)、ベテラン飛び込み選手が若手選手とペアを組むことにより過去のトラウマと向き合ってゆく『ダイブ』(2022年)といった、まさにそうした関係のなかで起きるコーチによる指導選手への性的虐待を詳らかにしてゆくような作品も近年世に送り出されている。

『ジュリーは沈黙したままで』は、ジュリーのコーチがジュリーやほかの教え子にハラスメントや暴力を働いていたのかを、明らかにはしない。それでも、映画はその可能性を繊細な表現で少しずつ積み上げ、観客は静かに察してゆく。カメラは根気強く黙ったままでいるジュリーの日常生活に寄り添い続け、彼女の沈黙を尊重する。
ポスト#MeToo映画として位置付けられる『アシスタント』も『ジュリーは沈黙したままで』もともに、声をあげられない時間にまなざしを向けさせ、声を押し殺す痛みにこそ拡声器を与える。それは、世界が声をあげられる女性たちだけで構成されているのではないのだというごく当たり前のことを、わたしたちに気づかせる。
文:児玉美月
『アシスタント』

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『ジュリーは沈黙したままで』

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