りな日記 vol.11

9月6日(日)


保護していたナミアゲハのさなぎが土砂降りの今日に羽化してしまった。この雨の中外に放すことはさすがにできず、蝶本人に人間の言葉で事情を説明する。納得をしてくれたかはわからないけれど、天気が安定するまでしばらく家の中で過ごしてもらうことにした。
部屋の中に干した茶色いバスタオルを止まり木にしている蝶は、電気をつけなければ動かない。だから明かりはつけられない。寝室という名の四角い箱の中で窓にうちつける雨風をぼうっと眺めながら、船に乗っているみたいだなと思う。私と蝶だけが眠る、変な船。

 

9月7日(月)


「35年前も大雨でした」という母からのメッセージを受け取り、今日が誕生日だということを実感する。この日はいつも土砂降りで、台風が来て休校になったことも何度かある。誕生日くらいはすっきりと晴れてほしいと若い頃は思っていたかもしれないけれど、最近は誕生日に天気が悪いと少しだけほっとする。
そんな今日は高いところに行きたくて、行ってみたかった高輪ゲートウェイの商業施設の28階にある空中庭園にに行った。庭園には屋根のある場所とない場所があり、あえて雨に濡れるのも楽しかった。木々や植物もうれしそう。

庭園のすぐそばにあった蕎麦屋に入って昼食をとる。すき焼き風の蕎麦に入っている岩海苔の存在が新鮮で嬉しい。「こういう天気の悪い日に、これくらい高い場所の大きな窓から見る景色が好き」と私が言うと、私の言葉を聞いていたのか、向かいに座っていた親子が同時に窓の外を見る。その瞬間、テーブルにいた見知らぬ全員がお蕎麦を片手に窓の外を無言で眺める時間が発生する。高いところから見る荒天は神さま視点の世界の気分。
帰宅すると、リビングにいた蝶が「おかえり」と言うようにばたばたと遊んでくれた。部屋の中を飛びまわる蝶に「おいで」と言うと、私の手のひらに飛び込んできた。人間の言葉がわかるのだろうか。わかるのは言葉ではないのかもしれない。けれど、あなたに心がなくても私は嬉しい。「生まれてきてくれてありがとう」と、人間の言葉で伝えてみた。


 

文・写真:佐々木里菜

Profile

佐々木里菜

佐々木里菜

写真家。1991年宮城県仙台市生まれ。スタジオ勤務や写真家の弟子を経て2019年より商業写真家として活動する傍ら、2020年より日記を中心とした文筆活動を細々と行う。主な著作に『ロイヤル日記』(2024年)、『料理未満日記』(2024年)、『近く訪れる彗星』(2025年)など。夜の散歩と植物と疲れている日にわざわざつくる料理が好き。

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