児玉美月|女性監督が肯定する女性の欲望【自分らしく生きるための映画紀行 第8回】
「夫人」から一人の女性へ…『エマニュエル』が描いた女性の性的自由
同じく、女性作家がかつて男性的なまなざしで描かれてきた女性の欲望を現代に鋳直す映画が『エマニュエル』(2024年)だった。『エマニュエル』は、中絶が禁止されていた1960年代初頭のフランスを舞台に望まぬ妊娠をした大学生を描く『あのこと』(2021年)の監督オードレイ・ディヴァンが、1974年に公開された官能映画『エマニエル夫人』を再解釈して誕生した。「エマニエル夫人」から「エマニュエル」へ──この映画では主人公を、夫に帯同する「夫人」ではなく、ひとりの自立した女性として立ち上げてゆく。

処女性を纏う若い女性だった『エマニエル夫人』のエマニュエルは、『エマニュエル』では30代半ばへと年齢も上げられ、成熟した女性として生まれ変わった。『エマニエル夫人』のように男性の手ほどきによって性を開花させるのではなく、『エマニュエル』ではどこまでも自分自身と向き合うことによって性が解放されてゆく。女性の性的自由とセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)の問題は切り離せるものではなく、だからこそオードレイ・ディヴァンが前作で『あのこと』を撮っている作家であることが重要だといえる。
エマニュエルは、ある香港の高級ホテルに品質監査員として訪れる。ホテルでの調査を進めてゆくなかで、長期滞在しているという謎の男ケイに出逢う。ケイは、ホテルの自分の部屋では決して眠らないという。ミステリアスなケイの魅力になぜか惹かれ、やがてエマニュエルは彼を尾行しさえするようになってしまう。エマニュエルは品質監査員という職業を与えられ「見る側」として映画に現れるだけでなく、彼女の視点でケイの手元や口元がクロースアップで映され、「見る男性/見られる女性」の関係が反転される。

ケイだけでなく、そこで出逢うそれぞれに個性を持つ女たちからも、エマニュエルは影響を受けてゆく。たとえばあるときプールサイドにいたエマニュエルは、文学を学ぶアジア系のゼルダが、外から中が見える小屋で宿泊客と性行為に耽っているところを目撃する。ゼルダは自らの意思で「見られる」ことを欲望し、主体的に性を楽しむ女性として、エマニュエルを未知なる快楽の旅へと導いてゆく。
奇しくも同じ年に撮られた『ベイビーガール』と『エマニュエル』は、男性的なまなざしの捉え返しという同じ問題意識を共有しながら、女性の欲望がいかに奥深く複雑か、それぞれ女性作家によって針穴に糸を通すような繊細さと危うさで探求されている。
『ベイビーガール』

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・作品名 『ベイビーガール』
・発売日 DVD発売中
・価格 4,000円(税抜)
・発売元 株式会社ハピネット・メディアマーケティング
・販売元 株式会社ハピネット・メディアマーケティング
・(C)表記 © 2024 MISS GABLER RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
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『エマニュエル』

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・作品名 『エマニュエル』
・発売日 DVD発売中
・価格 5,000円(税抜)
・発売元 ギャガ
・販売元 ギャガ
・(C)表記 © 2024 CHANTELOUVE – RECTANGLE PRODUCTIONS – GOODFELLAS – PATHÉ FILMS
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